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経営ブログ

2024.10.15

歯車のもう一つの曲線(その1)―サイクロイド-

監査役 古川 正志

 前回のブログで糸巻き曲線―インボリュート-について歯車の歯先の曲線に使用されていることを述べました。少し調べると歯車の歯先にはサイクロイド曲線と呼ばれるもう一つの曲線が出てきます。これも面白そうだと思い、その曲線の数式の導出を試みてみました。

 薄いA4の雑誌の表紙にA4の白紙を重ね、その長辺の一つ30cmの定規をクリップで固定します。薬びんの蓋(薬瓶でなくとも丸いものであればなんでもいいのですが)の周りの1点に鉛筆の芯を固定して貼り付けます。鉛筆の先は円錐形で先を蓋の端にピタッと合わせると鉛筆は斜めになって蓋との間に隙間ができますので、テッシュを小さく切って少し揉んで隙間を埋め、そこをやはりセロテープで固定します。鉛筆の芯を定規に接触させ時計周りに薬びんを回転させて行きます。その時、薬びんを一蹴させると鉛筆の芯は蒲鉾のような曲線を描きます。この蒲鉾曲線をサイクロイド曲線と言います。

 このサイクロイド曲線を数式で導いていきます。最初に十字形にクロスする座標軸を作ります。横軸をx軸、縦軸をy軸とします。次に座標軸の原点をOとし、点Oに接するように半径aの円を描きます。この円をx軸上で回転させ、制止させたとします。この時に出発した円の原点Oとの接点が回転して動いた円上の点をPとします。点Pの軌跡がサイクロイド曲線となります。点Pから下ろした垂線とx軸の交点をAとし、点Pからx軸に並行に引いた直線とy軸の交点をBとします。制止させた円の中心をGとし、Gから下ろした垂線とx軸の交点をC、点Gからx軸に並行に引いた直線とy軸の交点をDとします。この時に円が回転した角度をθとします。そうすると
   θ = ∠CGP
∠は線分CGと線分GPの作る角度を意味します。

 点Pのx軸の座標xは
   x = OC - AC
となります。θにはインボリュート曲線の時に述べたラジアンの単位を使用します。OCの大きさは円が回転したときの点OがPに転がった長さになります。これは円弧の長さCPになりますから
円弧CPの長さ= aθ
となり
OC = aθ
となります。

ACはθがπ/2(直角、ラジアンの単位を使用)より小さい時は、
AC = GP sinθ = a sinθ
となります(GPは回転円の半径です)。
 また、ACはθがπ/2(直角、ラジアンの単位を使用)より大きい時は、∠PGDをψとすると
  AC = GPcosψ = a cosψ
となります。ここで
  ψ= ∠CGP - ∠CGD
= ∠CGP - π/2
= θ - π/2
ですから、cosψ = cos(θ - π/2) = cos (π/2 - θ) = sinθ
から、やはり
  AC = a sinθ
となります。従って、どちらの場合も
   x = OC - AC
= aθ - a sinθ
となります。

 点Pのy軸の座標yは、θがπ/2より小さい時は
  y = OD - OB
となります。
  OD = a
  OB = GP sinθ=a cosθ
となります。
 点Pのy軸の座標yは、θがπ/2より大きい時は
  y = OD + OB
となります。
  OD = a
  OB = GP sinψ
となり、sinψ = sin(θ - π/2) = - sin(π/2 - θ) = cosθからOB = GP cosθ = a cosθとなります。これらからどちらの場合も
  y = a - a cosθ
が得られます。まとめると
  x = a(θ- sinθ)
  y = a(1 - cosθ)
となり、サイクロイド曲線が求まります。

 ところで歯車にサイクロイド曲線が使われたとして他の歯車の力が点Pに加わった時、その力はどこに向かうかを調べてみます。点にかかる力をベクトルFとすると、この力は点Pの接線方向の力Ftと法線(接線と垂直な直線)方向の力Fnに
  F = Ft + Fn
のように分解できます。法線方向が点Pにかかる力Fnとなります。

 点Pの接線ベクトルをTとすると
  T = [ dx/dθ dy/dθ]
となります。これを計算すると
  dx/dθ= a(1 - cosθ)
  dy/dθ=a sinθ
が得られます。法線ベクトルをNとし
  N = [ Nx Ny ]
とすると接線ベクトルと法線ベクトルは直行しますから、二つのベクトルTとNの内積は0となり
  dx/dθ・Nx + dy/dθ・Ny = 0
が成立します。dx/dθ、dy/dθの値を代入すると
  a(1 - cosθ)・Nx + a sinθ・Ny = 0
となります。この式を満たす一番簡単なNxとNyの値は
  Nx = sinθ
  Ny = -1 + cosθ
となります。

点Pの位置ベクトルをPとすれば、法線上の直線の点R = [ X Y ]は媒介変数tを用いて
  R = P + t N
で表せます。これから
  [ X Y ] = [x y ] + t [Nx Ny ]
となり、ベクトルのそれぞれの要素を計算すると
  X = a(θ- sinθ) + t sinθ= aθ- (a- t)sinθ
  Y = a(1 - cosθ) + t(-1 + cosθ) = ( a-t ) - (a - t)cosθ
となります。ここでt = aとおくと、[ X Y ] = [ aθ 0]となり、この点は転がった円がx軸と接している点Cに一致します。これから点Pにかかる力Fnは点Pから円とx軸の接点Cに向かってかかることが分かります。

 実際の歯車に使用されているサイクロイド曲線は、直線の定規を円が転がるのではなく、丸い鍋敷きのような円の輪郭に沿って缶ビールのような円が転がった時に、缶ビールに印をつけた点の軌跡が使用されています。そのようなサイクロイド曲線を示そうと思いましたが、すでに紙面が一杯ですので次回に廻したいと思います。今回も三角関数とベクトルの力を借りてしまいました。これらが苦手な方は読み飛ばして下さい。

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