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経営ブログ

2024.02.05

オリオン座

監査役 古川 正志

 札幌の空ではほとんど見えないのですが,冬の南の空に一段と輝く鼓を少し左に傾けたような星座に出会います.この星座がオリオン座です.このオリオン座は私の人生を励ましたといってもいい星座です.
 1976年9月,アメリカの国内が建国200年でわいている頃でした.私はニューヨーク州の小さな町イサカ(Ithaca)にあるコーネル大学で働き始めました.仕事は北海道大学で開発された世界初の3次元CADシステムTIPS-1をコーネル大学機械航空工学科で進められている射出整形金型(Injection Molding Project)プロジェクトに,CADデータベースを移植することです.射出整形とは熱で溶融したプラステックスを注射器のような構造をしたタンクから金型に押し出し,金型内部に彫り込まれた形状のプラステックス製品をつくる製造法をいいます.時代はまさにプラステックス製品が爆発的に増えようとしていた頃でした.
 この射出整形によるプラステックスの製造は,プラステックスの溶融温度,押し出す圧力,金型へのプラステックスの入り口(インレット)の位置,個数,冷却方法,金型内でのプラステックスの流動解析,等とこの頃は工学(科学)的には未解決なことが多数ありました.例えば,これらをうまく設計できないと金型の隅にプラステックスが届かないとか複数の入り口があるとそれらの入り口から注入されたプラステックスが金型内で出会うところ境界線ができ製品がそこで脆弱になることが知られていました.この金型の設計をコンピュータと理論面から行おうというのがこのプロジェクトの目的でした.
 私が持ち込んだCADシステムは,当時,北海道大学大型計算センターに導入されていたFACOM230/60でしたが,コーネル大学でインストールしようとしたコンピュータはIBM360/168でした.システムを作成した言語はFORTRANでしたが,仕事の内容はCADシステム用に作成したTIPA-1と名付けた言語をFORTARANで翻訳(コンパイル)し金型形状のデータベースにすることが最初のミッションでした.この言語の翻訳はほとんどが文字処理でビット単位,バイト単位のプログラムがなされていました.単に科学計算にFORTRANを用いるのであれば表面上コンピュータが異なっても差異はほとんどないので簡単な仕事なのですが,文字データをビット単位,バイト単位で処理するとなると当時はコンピュータ毎に大きな違いがあり,それを習得するのが非常に大変でした.例えば,今では何のことはないのですが,文字型(Character)で書かれた123を整数(Integer)123に変換するのをFORTARANで行うのはそう簡単にはいかないのです.
 仕事は中々進まずあっという間に感謝祭がきて冬になってしまいました.コンピュータの使用料金は昼間の料金が夜間の料金の6倍ほどしました.コンピュータを安く使用するために,仕事のサイクルは朝9時に大学に出かけ,日中はデバックをし,一度夕食を取りに家に17時に帰り19時半に大学に戻りほぼ12時までプログラムをコンピュータにかけるサイクルに変わっていました.今考えるとこの時期が一番苦しい時だったのですが,夕食後に車で大学へ向かう南の空にこうこうと輝いていたのがオリオン座でした.仕事を終え12時くらいに大学の駐車場で車に乗る時にもいつも南の空に輝いていたのがオリオン座です.イサカの町の緯度は旭川のそれとほとんど同じでしたのでそれは旭川で眺めたオリオン座と同じものでした.とりわけオリオン座の鼓のような形の中央に位置する右上に20度くらい傾いた三星は,冬空で美しく私を励ましているように感じたものです.この仕事がうまくいかないと日本には帰れないというような悲壮な気持ちをこの三星はじっと見つめていてくれたような気がします.
 幸い新年になる前にはこのコンパイルの仕事はほとんど終わり,その後はFORTARAN 言語によるアプリケーションでしたので順調に仕事も進み,無事に日本に帰ることができました.
 オリオン座は冬の空で一番輝いているので,世界中の国でオリオン座にまつわる話があるようです.そうした話ではないですが,沖縄のビールのCMが「三ツ星マークのオリオンビール」と歌っているのになんとなく嬉しくなりました.ちなみに札幌ビールは一つ星ですが.

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