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経営ブログ

2021.11.08

パルミターの虫

監査役 古川 正志

もう20数年昔の話になりますが,人工生命(Artificial Life, AL)の研究が盛んになり始めた頃に「パルミターの虫」と呼ばれる技術が現れました.この虫は遺伝子として前進(Forward),後進(Backward),右旋回(Right),左旋回(Left),右前旋回(Right Forward),左前旋回(Light Forward),右後進旋回(Right Backward),左後進旋回(Left Backward)へと移動する8つの行動遺伝子のみを持ちます.ただ,これら8つの行動の中どの行動を選択して移動するかは遺伝子の強さに基づいた確率計算で行います.この確率計算には少し変わった計算を行います.遺伝子の移動の強さを先に述べた4つの行動に対してF,B,R,L,RF,LF,RB,FBとします.例えば,F=1,B=2,R=1,L=3,RF=1,LF=1,RB=2,RB=1とします.このとき各行動の選択確率を

   Forward : 2^F/(2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

      Backward : 2^B/(2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

      Right : 2^R/((2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

      Left : 2^R/((2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

   Right Forward : 2^RF/(2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

      Left Forward : 2^LF/(2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

      Right Backward : 2^RB/((2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

      Left Backward : 2^LB/((2^F+2^B+2^R+2^L+ 2^RF+ 2^LF+2^RB+2^LB)

のように計算します(^はべき上計算です).具体的には,前進の確率は

   2^1/(2^1+2^2+2^1+2^3+2^1+2^1+2^2+2^1)

      =2/(2+4+2+8+2+2+4+2)=0.076 (7.6%)

のように計算します.行動はサイコロを振るようにして行動確率で決定します.

 また虫には行動のためのエネルギーを設定します.このエネルギーは行動を1回起こすたびに1エネルギーだけ減少するようにします.初期エネルギーを100に設定すると初期エネルギーのままでは100回の移動しか起こせなくします.

 パルミターの虫の生息する環境として島を設定します.この島には定期的に虫の餌を均等にばら撒きます.例えば10匹の虫に対して100回の行動ごと1000個の餌をばら撒くようにします.虫は先の選択的確率で行動を起こします.選択行動を起こした移動先でたまたま餌に出会うと虫はこの餌を食べるようにしますが,このとき全体の餌の数は一つ減少するようにします.また,餌を採取した虫はエネルギーをある量,例えば2,獲得するようにします.エネルギー量が100であれば102とします.更に,餌を採取した選択行動に対しては,行動の強さを0.1増加するようにします.虫の選択行動の強さが2であれば3にします.もし餌が当たらなければその方向の強さを0.1減少させます.

 こうすると,餌のある方向に移動する行動の強さをもった虫がエネルギーを一番獲得できるようになります.虫の数がいつまでも一定ではつまらないので虫間の生存競争を導入します.虫の生死は虫がエネルギーを一定の量,例えば400になると分裂して2匹になるようにします.エネルギー量が0になると死滅するようにします.同時に虫が分裂するときに行動の強さを2匹の虫が分裂前の虫の半分ずつ分け与えます.それとともに片方の虫には確率的に虫の行動のあるものをデタラメに選択し,選択した行動の強さを+2あるいは-2とします.これは生物界の突然変異に相当します.

 こうして虫の行動のシミュレーションを行います.シミュレーションでは初期の虫の数や餌の数,餌の与える時間間隔,等がパラメータとなります.実際にシミュレーションを行ってみますと,グルグル右回りに回転する虫や長い距離を直進する虫,等の個性をもつ虫が発生してきます.また,パタメータを上手に調整すると虫の数が増加し減少する波のような振動を起こすようになります.このとき餌の数は減少し増加する虫の数を追いかける波のような振動となります.この関係は捕食者と被捕食者の関係として知られています.制御や感染症の世界ではボルテラの方程式の解と呼ばれています.

 コロナ禍でのコロナと人間の関係も捕食者と被捕食者の関係ですから,更に,種々の条件を組み合わせていくことで実際にシミュレーションが可能になるはずです.こうした種々の条件が何かを,あるいは,現実にあうパラメータを見つけ出すことは難しいのですが,可能にする努力によって,コロナの対象法も考えることができるのではないでしょうか.

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