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2020.12.01

異人

監査役 古川 正志

                                                                                                      監査役 古川正志 

 異人と聞いてその意味を分かる人は,相当の中国通ではないでしょうか,異人は決して異邦人を略したものではありません.正式には嬴異人という名前です.彼は秦の始皇帝である嬴政の父です.

 10月のある日曜日の9時頃,何気なくBSのテレビにリモコンを変えたときにたまたま「リ・コウラン伝」という中国ドラマを放映していました.主人公のリ・コウランは,この異人が趙国で見初め,後に,始皇帝の母親となる女性です.異人は中国戦国時代後期に時の秦国の昭襄王の太子である公子注の子(昭襄王の孫)として趙国に人質に送られていました.

 ところでテレビドラマでは,リ・コウランを中心に呂不韋と異人を三角関係のごとく描きドラマが進行していきます.このもう一人の主人公呂不韋こそが異人を趙国から連れ出し,深慮遠謀で異人を後に始皇帝の父に担ぎだした張本人です.

 呂不韋の有名な話があります.呂不韋は趙国で裕福な賈人(商人)の下に生まれました.趙国でみすぼらしい生活を行っていた異人をみつけ,--これ奇貨なり,居(お)くべし--と思います.--奇貨--は価値のあるもので,--居く--はたくわえておくということです.小説家宮城谷昌光の「戦国名臣伝」では,彼はある日に父親に質問し,以下のような問答を行ったとあります. 

 「耕田の利益は,幾倍ですか」

 「十倍だ」と父はいった.

 「珠玉の儲けは幾倍ですか」

 「百倍だ」

 「国家の主を立てた儲けは幾倍ですか」

 「かぞえきれぬ」

それを聞いた呂不韋は膝をすすめて,

 「田圃で汗をながして働いても,暖かい衣服とありあまる食物を得られません.ここで国を建て君を立てると,その余択を後世の子孫に遺すことができます.秦の公子である異人が趙の人質となっています.往ってかれに事(つか)えてみたいとおもいます」 

 これと同じ内容の台詞がテレビドラマのリ・コウランででてきたのが,タイトルからは内容が分からないこのドラマをみるきっかけとなりました.この後,呂不韋は趙国を異人とともに逃亡し,公子注から異人の傅を命じられます.秦国の昭襄王が亡くなった後に王に即位した孝文王(公子注)が異人を太子に指定し崩御した後,異人が荘襄王に即位すると呂不韋は丞相となり万戸(十万戸)候となります.まさに異人は呂不韋にとって奇貨となりました.呂不韋は文化人でもあり,呂氏春秋を書き残した歴史家としても知られています.

 ところで,テレビドラマはどのように進むか分かりませんが,リ・コウランは異人が趙国で出会ったときに呂不韋の妾であったともいわれています.それが後に,秦王政(始皇帝)が父親を孝文王でなく呂不韋だったのではないかと嫌疑をかける遠因となり,呂不韋はとうとう毒を飲んで自殺したという話が伝えられています.

 --奇貨居くべし--何か心に残ること言葉です.

(一部を宮城谷昌光氏の小説「戦国名臣列伝」から引用しました)

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